ある五人家族の情景から



お父さん働いています。
お母さんも働いています。
お母さんワープロをうつパートの仕事をしています。
疲れた目を引きずって夕暮れが迫る頃帰宅します。
すぐ犬の散歩に出かけます。
そしてスーパーへ買い物にも出かけます。
それから夕御飯の用意もします。


部活動が終わった中学生の三女が帰ってきます。
遠距離通学の高校生の次女が帰ってきます。
一杯飲んだお父さんが帰ってきます。
色気むんむんの大学生の長女が帰ってきます。
その都度お母さんに「ご飯」と叫びます。
お母さんは疲れ目に疲れた身体に
更年期も背負いながらも
老骨にむち打って頑張ります。
お母さんはお風呂の時間までは白河夜船。
船をこいでもうグシャグシャ。


犬の鳴き声が近隣に響きわたる前、
朝5時にお母さんは起きます。
そして、犬の散歩に出かけます。
この犬、よく鳴きます。
三人分のお弁当も作ります。
五人分の朝御飯も作ります。
その間に洗濯機も回して、すぐ干します。


長女、次女、三女が起きてきます。
それぞれが「お母さん話があるの。」と言う。
お母さんが優しく「何?」と答えると、
「お母さん、お金。」と言う。
お母さんはもうこの時点で、
またもやグチャグチャに疲れてしまう。


昔は、子どもはその家の労力だった。
今では、お嬢様、お客様のお取り扱い。
何か変です。この人間社会。


「勉強ばかりさせちゃってネ。」とお母さんの声。
「でも、天才じゃないのよ。中途半端な学力なのよ。」
何か変です。この女たちの生ける社会。
「中途半端な学力より、しっかりした生活を教えた方が。」
と叫ぶのは、私だけ。


お母さん、今日も明後日も、
疲れて疲れて、頑張ります。
家族ってなんだろう。
お母さん、どうしてリラックス出来ないの。
家族の幸せってなんだろう。
お母さん、家にいることはできないの。


私はいろいろなことを考える。
お金が欲しいの?学歴が欲しいの?何が欲しいの?
こんな馬鹿な家庭生活は何も生み出さない。
「21世紀に輝く女の姿」をしっかり描き出さなければ。
このままではいけない。
誰もこんな結婚生活には憧れるはずがない。


お父さんも変。お母さんも変。子ども達も変。
助け合えないのであったら家族ではない。
誰かお母さんの疲れた心をのぞけないの?
お母さんを助けてあげて。
こう叫んでみても、わが家もどこか似ている「変」。


でも、わが家は今、遅ればせながら気が付いた。
追いかけられるだけ追いかけて疲れ果てた将来よりも、
今この時を神様に委ねて心に憩いのある人生を歩む大切さを。
仕事中毒症だった夫が、我に帰ってイエスさま症候群に陥った。
そして今、夫婦二人が「家庭」を顧みるときを与えられた。


「ママいっしょにお風呂に入ろう、髪の毛の洗いっこをしようよ。」
「ママ、今日のママは一日中忙しかったから食器洗い手伝うよ。」
と、声をかけてくれる夫。
「もう私がお風呂に入ったことを知っているのに。」とか、
「最後の二、三枚になった頃なのに。」とは思いつつも、
私はたったこれだけのことで十分幸せなのです。
夫婦の幸せって何なのでしょうね。


相手のことを思いやる。
相手を見つめている。
相手に興味を持つ。
自分がして欲しいと思うことを相手にしてあげようとする心。


文京区で現実のこととして発生してしまった春奈ちゃん事件。
子どものお受験に、人間関係に、疲れ果ててしまった哀れな母親の姿。
母親同志の心のもつれが原因だという。
人の子に手をかけて、
相手の家族も自分の家族も、
最愛の自分の子どもと夫の将来までも踏みにじってしまった。


母親は子育てをやっている間中、
家庭でも地域でも理解が得られず孤立している。
その結果、育児に子どもの受験のために、
精神的にズタズタにされて、
自分の人生の自由を奪われ、
体力の消耗を強いられる。


母親を助けてください。
これ以上、母親の優しさを安易に受け流さないでください。
母親を家政婦のように扱わないでください。
これでは女のマイナスの面ばかり。
奴隷のように自由が奪われた姿が植え付けられて、
もう誰もお母さんにはなりたがらない。
すでにお母さんになりたくない症候群も48%に達している。


神様が与えてくださった人間社会。
男と女、大人と子ども。
ビジネスと家事。家庭生活のあり方。
すべてが問題になっている。
今、私たちが見失いかけているもの。
その恐ろしい後ろ姿。気付いていますか。
私たちがなくしているもの。
それは「愛」。
「愛」が失われたとき、すべてが「犠牲」と言うことばに変わる。


母親として私たちがしなければいけないこと、
良い母親を演じることでもない。
躾の良い子を作りあげることでもない。


子どもを高学歴に導けば幸せな人生を送れると勘違いしている母親。
「何が正しいか」を教えられる人、
グッドニュースを伝えられる人として精一杯生きることが母親の責任。
小さなことに忠実に生きていれば、
神様は大きな幸せをご用意してくださる。


「よくやった。忠実なしもべだ。
あなたは、わずかな物に忠実だったから、
私はあなたにたくさんの物を任せよう。
主人の喜びをともに喜んでくれ。」
(マタイ25・21)



1999.11.27.

In the Love of Jesus Christ,

金森涼子






moji_b02.gifmoji_b04.gifmoji_b03.gif